鉄道旅を一層たのしくする車窓・施設案内シリーズです。
[場所]大井川鐵道大井川本線 塩郷-下泉
トーマスとなかまたちが活躍する路線として有名な大井川鐵道大井川本線。2017年は6月17日~10月9日の間に、のべ76日間(運転しない日もあり)に渡りトーマスとなかまたちが180便走行することが発表されている。
oigawa-railway.co.jp/thomas(←運行情報などはこちらをクリック)
そんな大井川鐵道には、車窓を楽しませてくれる名物がたくさんあるが、そのひとつが今回紹介する「塩郷の吊り橋」だ。
この吊り橋は歩行者専用で、全長220.4m、高さ10.4mと、大井川に架かっている吊り橋では長さが一番とはいえ、日本一ということではない。では、何が名物かというと、この橋が河川の他に県道の道路と鉄道の線路の上をも跨いでいる点にある。
さらに、細い橋桁が中央に向かって垂れた、渡るのにスリリングな感情を抱かせてくれる形から、「絶叫マシン」感覚で訪れる人も多い、人気のスポットでもあるからだ。
ということで、車内から見ているだけでは飽き足らない当サイトの記者が、大井川本線 塩郷駅で下車して訪ねてみた。
塩郷の吊り橋の入口は、塩郷駅から駅前の県道を千頭方面へ100m程歩いたあたりの右側にあり、斜面を少し上った所に立っている橋の東岸の主塔部分から入るようになっている。この主塔は近くから撮れる場所がなかったので、5枚下の橋上からの写真を参照していただければと思うが、まずその小ささに長大スパンの橋を十分に支えられるのかの不安に駆られてしまうのではないだろうか。しかしそんなサイズだからこそ桁が中心に行くに従い垂れ下っている構造で持ちこたえているというのも納得してしまいそうだ。
吊り橋の入口から桁を眺めると、歩み板の幅の狭さにも渡る恐怖を感じてしまう。実のところ、この橋は同時に渡れる人数が定員10人ということになっている。その意味もこの板の狭さから頷けてしまう。
吊り橋は人家の上を通り、さらに県道と大井川本線を跨ぎ、そして大井川を渡るように架けられている。橋の真ん中くらいまでくると、幅広い河川の中空に浮かぶ狭い歩み板が歩行により揺れて軋み、かなりのスリル感が味わえる。たまにこの橋の上から撮ったSL列車の画像を見掛けるが、よくこんな所でカメラを構えられるなと、撮った人のキモの太さに感心をしてしまった。自分などは普通の電車すら待つ気にならなかったからだ。
吊り橋を渡った対岸は鬱蒼とした森になっており、その先の坂を上がると茶畑と人家が点在する町がある。この地区を「久野脇」と呼び、塩郷の吊り橋の正式名称も実は「久野脇橋」という。塩郷駅の開業が1930年(昭和5年)9月23日で、久野脇橋は1932年11月に架設されたものだから、この吊り橋は塩郷駅からこの地区へ渡るために架けられたのだと推測できる。
なお、塩郷の吊り橋の上流400m程の所には塩郷ダムがあり、その上はクルマも通れる道路になっているので、吊り橋を往復で2度も渡る自信のない人はそちらを回ることもできる。
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[寄稿者プロフィール]
秋本敏行: のりものカメラマン
1959年生まれ。鉄道ダイヤ情報〔弘済出版社(当時)〕の1981年冬号から1988年までカメラマン・チームの一員として参加。1983年の季刊化や1987年の月刊化にも関わる。その後に旧車系の自動車雑誌やバイク雑誌の編集長などを経て、2012年よりフリー。最近の著書にKindle版『ヒマラヤの先を目指した遥かなる路線バスの旅』〔三共グラフィック〕などがある。日本国内の鉄道・軌道の旅客営業路線全線を完乗している。