鉄道旅を一層たのしくする車窓・施設案内シリーズです。
[場所]
箱根登山鉄道 入生田-箱根湯本
京浜急行電鉄 金沢八景-神武寺
まもなくの2016年3月26日にJR北海道新幹線 新青森-新函館北斗 間が開業する。そのうち新中小国信号場と木古内駅の間はJR海峡線と共用しており、1,435mmゲージの電車と1,067mmゲージの貨物列車を通すために3線軌条になっている。
そんな流れで、1997年3月22日にJR秋田新幹線が一部3線軌条で開業して以来、久々に「3線軌条とは何か?」という話題が持ち上がりそうな気配なので、ここでその分岐器がどんな構造になっているかを見ていくことにしよう。
今回紹介するのは、箱根登山鉄道 入生田-箱根湯本 間と、京浜急行電鉄 金沢八景-神武寺 間に敷設されている3線軌条。よく考えたらこの2区間はともに神奈川県内のため、タイトルは「神奈川で見られる三線軌条」としても良かったが、「首都圏」と綴った方が大袈裟に見えそうなので、当初につけた表現のままでお許し願いたい。
まずは箱根登山鉄道 入生田-箱根湯本から
1,435mmゲージの箱根登山鉄道は1950年8月1日から小田原-箱根湯本 間に1,067mmゲージの小田急電車が乗り入れを開始したために、その前に3線軌条化された。しかし、2006年3月18日から小田原-箱根湯本 間は終日小田急車での運行になったことにより、その後に小田原-入生田 間は順次1,067mmゲージのみの2線軌条化されていった。だが、入生田-箱根湯本 間は、入生田駅に隣接して1,435mmゲージの箱根登山車の車庫があるのと、箱根湯本-強羅 間は1,435mmゲージの箱根登山車で運行しているため、その出入庫の関係から3線軌条は残されている。
入生田駅は相対式2線構造ながら3線軌条は山側(小田原駅基準)の上り2番線のみに敷設されている。おそらく回送電車だけしか走らないので箱根登山車同士の交換がないのと、共通レールをプラットホームの反対側に施設しなければならない車輛限界の関係、さらには元々の枕木の配置もあり、これが都合がよかったのだと思う。
ちなみに箱根登山鉄道の3線軌条区間にある分岐器にはどちら側にも3線で分岐しているモノは現時点ではない。だが、それが却ってさまざまな形の分岐パターンで可動している姿が見れて、現場の方には申し訳ないが眺めていて面白い。
では次に箱根湯本駅の分岐器を見ていこう。
箱根湯本駅は海側1番線・2番線を1,067mmゲージの小田急車、山側4番線・5番線を1,435mmゲージの箱根登山車が使用しているためと、共通レールが山側に敷設されているため、入生田駅方にある分岐では1,067mmゲージの車輪の海側フランジが1,435mmゲージ海側のレールを可動クロッシングで交差していかねばならず、分岐器が複雑な構造になっている。
入生田駅隣接の車庫は山側にあり、箱根湯本駅では1,435mmゲージのレールが山側に分岐しているのだから、共通レールが海側に敷設されていれば、分岐器はもっと簡単な構造になっただろうが、そのためには、入生田駅を島式にするとか、枕木全交換とかで工事が大掛かりになってしまうため山側への敷設を選んだものと思われる。
そして京浜急行電鉄 金沢八景-神武寺
この区間は、分岐器が可動するタイミングは京急線とレールがつながっている総合車両製作所横浜事業所で製造されたり、他所で製造された京急、そして京成系の車輌が総合車両製作所横浜事業所に入場するために通る時だけなので、本来なら「総合車両製作所横浜事業所専用線」と表記するべきなのかも知れないが、一般的な時間に目にするのは京急の電車ばかりなので、タイトルには「京浜急行電鉄 金沢八景-神武寺」と謳わせていただいた。
そもそもここに3線軌条が敷設されたのは、総合車両製作所横浜事業所がある土地が、かつては旧帝国海軍の海軍工廠があった場所であり、当時そこが省線の1,067mmゲージとは接続していなかったのと、逗子に旧帝国海軍の池子弾薬庫があったため、製品輸送用として、ちょうど海軍工廠の前を通り、そして逗子まで続いていた京急(当時は湘南電気鉄道)の1,435mmゲージの線路に目を付けてレールを1本追加して1,067mmゲージとの3線軌条として共用したものと思われる。
どんな経緯で敷設されたかはともかくとして、ここに車輛工場ができたことにより、現在も現役の3線軌条の線路が生き残っており、歴史を物語るうえでも幸運かも知れない。
では、まず金沢八景駅周辺から見ていくとしよう。
上の写真は、総合車両製作所横浜事業所入口前にある3線軌条の分岐器で、この2つが今回紹介している中でどちらも3線で分岐している唯二のモノ。そして丁度左右分岐1つづつあるので、構造の違いを見くらべるのにもベストな場所でもあろう。
共通レールでない側への分岐では曲線側に固定クロッシングが2つ、共通レール側への分岐では直線側に固定クロッシングが2つ入っているという相違がある。そして、写真で見るところの左側の1,435mmゲージのみのレールが1,067mmゲージのみのレールと交差する部分は、フランジが通る隙間が固定クロッシングでは大きくなるため可動クロッシングになっていることが解るだろう。
そして下の写真が、金沢八景駅の金沢文庫駅方にある京急線と総合車両製作所横浜事業所専用線の分岐部分。
こちらの分岐器は設置されている3つすべてが3線軌条が共通レール側片側のみに分岐するタイプのため、内側1,067mmゲージのレールにはトングレールがなかったり、さらに可動クロッシングも必要ないため、かなりシンプルな構造になっている。しいて複雑な部分を挙げるとすれば、直線側1,435mmゲージのみのレール(上写真では左のレール)に固定クロッシングが2つ入っているところだろうか。
次は、神武寺駅の六浦駅方にある京急線と総合車両製作所横浜事業所専用線の分岐部分。
1,435mmゲージと1,067mmゲージの単純な分岐器だが、共通レール側への分岐のためトングレールが1本(この場合トングと呼んで良いのか悩むが)しかない、至ってシンプルな構造になっている。
さらにこの金沢八景-神武寺 間にはもう2つ特長あるポイントが存在するので、こちらも紹介しておこう。それが下の2枚の写真だ。
六浦駅の前後には、3線軌条の共通レールを切り換える不思議な特殊分岐器が各1つづつある。ここは、元々は3線軌条の共通レールはそのまま2番線のプラットホーム側に敷設されていたのだが、それだと車輛限界の関係でプラットホームと車輛の間をかなり離さなければならず、京急車ではプラットホームとの間に27cmもの隙間ができてしまうので乗客の乗り降りに危険なために、2011年10月にこの形に改良されたとのことだ。
3線軌条のウイークポイントが、1,067mmゲージの車輛中心が共通レール側へ片寄り建築限界が広がることだというのを教えてくれているような場所でもある。
ここに掲載の内容はアップ日時点の情報になります。その後に状況の変化や、変更があった場合にはご容赦ください。
[寄稿者プロフィール]
秋本敏行: のりものカメラマン
1959年生まれ。鉄道ダイヤ情報〔弘済出版社(当時)〕の1981年冬号から1988年までカメラマン・チームの一員として参加。1983年の季刊化や1987年の月刊化にも関わる。その後に旧車系の自動車雑誌やバイク雑誌の編集長などを経て、2012年よりフリー。最近の著書にKindle版『ヒマラヤの先を目指した遥かなる路線バスの旅』〔三共グラフィック〕などがある。日本国内の鉄道・軌道の旅客営業路線全線を完乗している。
「首都圏でも見られる三線軌条」への1件のフィードバック
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