鉄道旅を一層たのしくする車窓・施設案内シリーズです。
[場所] JR函館本線 江部乙駅前
函館本線の下り列車に乗ると、江部乙駅を過ぎた右手に一軒宿の温泉がチラリと見える。これが今回紹介する『えべおつ温泉ホテル』の本館になる。そもそも、このホテルを紹介しようと思ったのは、列車の車窓から見えるということは、宿の部屋からも列車が眺められるのではないかと考えたのが切っ掛けになる。ということで、どんな感じに見えるのかを確認したく、6月下旬の夏至の頃に泊まってみた。
近頃では トレインビュー をウリにしているビジネスホテルなどは、それなりに増えているが、駅近のトレインビューの温泉宿となるとそうそうには見当たらない。筆者が泊まった中で思い浮かぶのは、磐越西線 咲花駅前の花咲温泉や、陸羽東線 東鳴子(現・鳴子御殿湯)駅前の東鳴子温泉、高山本線 下呂駅前の下呂温泉くらいだろうか。しかし下呂温泉を除けば他はともに宿の前を通る列車本数は少なく、温泉宿としては申し分ないが、トレインビューを楽しむ宿としてのイメージにはほど遠い。
それらに比べると、宿の脇を通る線路は函館本線という大幹線で、片方の線だけでも特急スーパーカムイは30分~1時間おきに通り過ぎるし、その間には旭川から先にも行く特急列車も走ってくるし、さらに721系の普通電車や、DF200形DLが牽引する貨物列車もやってきて、上下線を併せるとこの倍の本数が目の前を通るわけだから賑やかそのものの場所にある。
とはいえ、部屋から列車が見えなければ何にもならない。だがこの『えべおつ温泉ホテル』は良く眺められた。しかし、客室が線路とは反対側にもあるため、予約の時に「トレインビューの部屋希望」と申し添えないと、列車が見えない部屋になってしまう可能性があるため、注意が必要だ。
『えべおつ温泉ホテル』の本館の位置は、タイトルの写真を見てもらえれば解る通り、まさに江部乙駅の駅前にある。建物は平原の真ん中にあるという立地だが、温泉は天然の源泉かけ流しで白濁のお湯が特長の、1921年(大正10年)創業の老舗の入浴施設なのだ。
宿泊施設の方は、昭和の駅前旅館を知っている世代には懐かしい風情ある雰囲気で、そういうのが好きな方には向いていると思う。しかしながらトイレは時代の流れの要求か、共同ではあるが洋式の温便座ウォシュレット付になっていたり、また掃除が行き届いているため館内が清潔に保たれていたりと、こちらは現代風で、そういう生活に慣れた身としては助かる。
では、トレインビューの部屋からの、夕方の眺めをお伝えしよう。
宿の窓から望める景色は、上下の写真の通り、撮りテツ的にはあまりベストなビューポイントではない。しかしこれが駅前にある一軒宿の温泉からの眺望と考えれば、撮影が目的ではないと割り切り、湯上がりの浴衣姿で、鉄道情景を肴に酒を嗜めることをメインにする。そんな温泉テツと飲みテツが融合した楽しみ方こそが、この宿の真髄ではないかと思う。
では、朝方の眺めをお伝えしよう。
訪ねた時期が夏至の頃ということで、夕方は19時30分まで。朝方は5時44分から撮影しているが、秋~冬~春の期間は、この時間帯には撮影は無理かと思う。だが、宿泊のチェックインは12時半から可能なので、例えば酒と肴を買い込み、撮影は度外視して、昼過ぎから温泉とトレインビューを交互に味わう楽しみ方もできそうだ。
宿泊費はリーズナブルなので、興味を抱いた方は下記アドレスから宿泊情報を見ることができる。
http://onsen.secumaint.com/
なお、楽天トラベルやYAHOOトラベルなどからも予約は可能。
また、日帰り入浴もできる。料金などは2016年10月現在のもの。
日帰り入浴時間 9時30分~21時30分(月曜日は15時~)
日帰り入浴料金 大人500円 小学生250円
えべおつ温泉本館
〒079-0462 北海道滝川市江部乙町西12丁目8-22
TEL.0125-75-2555
[寄稿者プロフィール]
秋本敏行: のりものカメラマン
1959年生まれ。鉄道ダイヤ情報〔弘済出版社(当時)〕の1981年冬号から1988年までカメラマン・チームの一員として参加。1983年の季刊化や1987年の月刊化にも関わる。その後に旧車系の自動車雑誌やバイク雑誌の編集長などを経て、2012年よりフリー。最近の著書にKindle版『ヒマラヤの先を目指した遥かなる路線バスの旅』〔三共グラフィック〕などがある。日本国内の鉄道・軌道の旅客営業路線全線を完乗している。